虫歯や歯周病、外傷などによって歯を失ってしまったとき、どのような治療法を選ぶかは、患者さんにとって非常に大きな問題です。従来は、入れ歯やブリッジといった補綴治療が主流でしたが、近年では「インプラント治療」という選択肢が一般的になりつつあります。
このコラムでは、インプラント治療の基本的な仕組みやメリット・デメリット、そして他の治療法との比較を通して、より良い選択の参考になるような情報をお届けします。
インプラント治療とは?
インプラント治療とは、歯を失った部分の顎の骨に人工の歯根(インプラント体)を埋め込み、その上に人工の歯(上部構造)を装着する治療法です。インプラント体は主にチタンでできており、骨としっかり結合(オッセオインテグレーション)することで、天然の歯に近い安定した機能と見た目を再現します。
治療は大きく分けて次のような流れで進みます。
1. 診査・診断
CTやレントゲンなどで骨の状態や全身の健康状態を確認し、治療計画を立てます。
2. 一次手術(インプラント埋入)
顎の骨にインプラント体を埋め込みます。局所麻酔で行うため、痛みは少なく、手術時間も短時間で済みます。
3. 治癒期間(2〜6か月程度)
骨とインプラントが結合するのを待ちます。この間は仮歯を使用する場合もあります。
4. 二次手術(アバットメント装着)
歯ぐきを開き、インプラントの頭出しと土台(アバットメント)の装着を行います。
5. 上部構造(人工歯)の製作・装着
型取りを行い、セラミックやジルコニアなどでできた人工歯を装着して完了です。
インプラントのメリット
・天然歯のような見た目と噛み心地
インプラントは顎の骨に直接固定されるため、咀嚼力(噛む力)が天然歯に非常に近く、食事を楽しむことができます。また、セラミックなどの材料を使えば見た目も自然で、他人からは人工歯だと気づかれにくいのも特徴です。
・周囲の歯を削らない
ブリッジのように、両隣の健康な歯を削って土台にする必要がないため、残っている歯を守るという意味でも非常に優れた治療法です。
・顎の骨が痩せにくい
歯を失った部分は噛む刺激が伝わらなくなることで骨が次第に痩せていきます。インプラントは顎の骨に直接負荷がかかるため、骨の吸収を防ぎ、口元の若々しさを保つ効果もあります。
・長期的に安定した治療
適切なメンテナンスを行えば、インプラントは10年以上にわたって機能し続けることが期待できます。実際に、10年生存率は90%以上と報告されており、信頼性の高い治療法とされています。
他の治療法との比較
インプラント以外にも、歯を補う方法として「ブリッジ」や「入れ歯(義歯)」があります。それぞれの特徴を比較してみましょう。
インプラント:周囲の歯に負担をかけず、噛み心地が自然。見た目もきれい。骨の吸収も抑制できる。 手術が必要。保険適用外で費用が高い。治療期間が長め。
ブリッジ:固定式で違和感が少ない。短期間で治療が完了。 両隣の歯を削る必要がある。支台歯に負担がかかる。骨の吸収は防げない。
入れ歯:比較的費用が安く、保険適用も可能。複数の歯が欠損していても対応できる。 違和感が強く、外れやすいこともある。噛む力が弱く、見た目にも影響。
患者さんの口腔内の状態や健康状態、ライフスタイルによって最適な治療法は異なりますが、**「周囲の歯を守り、長期的な安定を求めるならインプラント」**が第一選択肢になるケースも多く見られます。
インプラントにもリスクと注意点がある
どんな治療にもメリットと同時にリスクが存在します。インプラントも例外ではありません。
・外科手術のリスク
手術を伴うため、感染症や神経損傷、出血といったリスクがあります。特に糖尿病や心疾患のある方は、事前に十分な診査と管理が必要です。
・治療費用の負担
保険適用外の自由診療となるため、費用は1本あたり30万円〜50万円以上が相場です。費用と効果のバランスを見極めることが重要です。
・定期的なメンテナンスが必須
インプラントは天然歯と異なり、歯周病ではなく「インプラント周囲炎」という特殊な炎症にかかることがあります。これを防ぐためには、定期的な歯科検診と毎日の丁寧なセルフケアが欠かせません。
インプラントに向いている人・向かない人
【向いている人】
・一本だけ歯を失っていて、他の歯は健康な人
・ブリッジで健康な歯を削ることに抵抗がある人
・入れ歯の違和感が強く、しっかり噛める治療を望む人
・メンテナンスの意識が高く、セルフケアができる人
【向いていない場合がある人】
・重度の全身疾患がある人(未管理の糖尿病、心疾患など)
・顎の骨が著しく吸収している人(骨造成が必要な場合も)
・喫煙習慣があり、治癒力に不安がある人
・口腔衛生状態が悪く、自己管理が難しい人
まとめ:未来の歯を守る選択としてのインプラント
インプラント治療は、失われた歯を自然に補うための非常に優れた方法であり、機能性・審美性ともに高いレベルで回復できる点が最大の魅力です。しかし、すべての人に一律に適しているわけではなく、治療計画やメンテナンス、費用面を含めた包括的な判断が必要となります。
そのためにも、歯科医師との十分なカウンセリングを通じて、インプラントの適応や他の選択肢を理解し、納得のいく治療を選ぶことが重要です。
「もう一度、しっかり噛める喜びを取り戻したい」「自分の歯のように自然な見た目を求めたい」——そんな想いに応えるインプラント治療は、今後ますます多くの患者にとっての選択肢となっていくでしょう。
私歯科医師山内は1995年以来インプラント歯科治療に携わり早いことと本人は思っておりますが、30年経過致しました。
欠損補綴の選択肢としてとても素晴らしい治療法です。適応症と予後の余地性を考慮し設計していきましょう。山内