ふと気づくと、口をポカンと開けて呼吸している――。これは、特に子どもや思春期の若年層に多く見られる「口呼吸」の癖です。しかし、実はこの癖、単なる見た目の問題ではありません。口呼吸は、歯並びやかみ合わせを乱すだけでなく、虫歯や歯周病、さらには全身の健康にまで悪影響を与える可能性があるのです。
本コラムでは、「なぜ口呼吸がいけないのか」「歯にどのような影響を与えるのか」を中心に、見逃されがちな口呼吸のリスクについて解説していきます。
鼻呼吸と口呼吸の違い
まず、私たちが本来行うべき呼吸は「鼻呼吸」です。鼻には空気中の異物やウイルスをフィルターのように取り除き、湿度や温度を調節する機能が備わっています。一方、口呼吸はこの機能をバイパスして直接空気を体内に取り込むため、乾燥した冷たい空気や病原体がそのまま喉や肺に届いてしまいます。
このように、口呼吸は呼吸機能そのものにもデメリットがありますが、口腔内の健康にも深刻な影響を及ぼすのです。
口呼吸が歯に与える影響
1. 口腔内が乾燥し、虫歯・歯周病リスクが上昇
鼻呼吸をしていれば、口の中は常に適度な湿度が保たれ、唾液の自浄作用によって細菌の増殖が抑えられます。しかし、口呼吸をすると唾液が蒸発しやすくなり、口腔内が乾燥しがちになります。
唾液には、虫歯菌や歯周病菌の活動を抑える抗菌作用や、酸を中和する緩衝作用があります。口が乾燥するとこれらの機能が弱まり、虫歯や歯周病のリスクが一気に高まります。特に前歯の裏側や上顎の歯列は、乾燥の影響を受けやすく、トラブルが起きやすい部位とされています。
2. 歯並びやかみ合わせが乱れやすくなる
成長期の子どもが長期間口呼吸をしていると、舌の位置や筋肉のバランスに異常が生じ、歯列に悪影響を与えることがあります。
本来、舌は上顎に軽く接しているのが正常な位置です。鼻呼吸をしていれば、舌は自然と上顎に収まり、上顎の正常な成長を促します。しかし口呼吸をしていると、舌は低い位置に下がり、上顎の発育が妨げられます。その結果、上顎が狭くなり、歯が並ぶスペースが足りずに歯列不正(ガタガタの歯並び)を引き起こすことがあります。
また、口周囲の筋肉が弱くなることで、出っ歯(上顎前突)や開咬(奥歯はかみ合うのに前歯が閉じない状態)などの不正咬合が生じやすくなります。
3. 口臭や舌苔(ぜったい)の増加
口が乾燥すると、舌の表面に白っぽい汚れ(舌苔)がたまりやすくなります。これは細菌や食べかすの集合体で、口臭の大きな原因となります。特に朝起きたときに「口の中がネバネバする」「臭いが気になる」と感じる人は、無意識に口呼吸になっている可能性があります。
4. 歯の脱灰と酸性化
唾液には、食後に口腔内が酸性に傾いた状態を中和し、歯を再石灰化させる作用があります。口呼吸によって唾液量が減ると、この中和作用が弱まり、歯の表面のミネラルが溶け出す「脱灰(だっかい)」が進行しやすくなります。これが初期虫歯の原因となります。
口呼吸の原因とは?
口呼吸の背景には、さまざまな原因があります。
・アレルギー性鼻炎や慢性鼻炎などによる鼻づまり
・扁桃肥大やアデノイド肥大などによる気道の狭窄
・舌の癖(舌突出癖)や口唇の筋力低下
・長期間の指しゃぶりや口を開ける癖
・睡眠時の無呼吸症候群などの呼吸障害
特に子どもの場合、早い段階で原因を突き止め、口呼吸を改善することが、歯並びの健全な発育や、全身の健康維持につながります。
どうすれば口呼吸を防げるか?
口呼吸を防ぐためには、以下のような対策が有効です。
1. 原因となる鼻づまりの治療
耳鼻科的な問題がある場合は、専門的な治療を受けることが第一歩です。アレルギーや慢性鼻炎がある人は、定期的な診察と適切な薬物療法を検討しましょう。
2. 口を閉じる意識づけと筋トレ
「あいうべ体操」や口唇・舌のトレーニングを行うことで、口周囲の筋力が改善し、自然と口を閉じやすくなります。特に舌の正しい位置(上顎の中央)を意識することが重要です。
3. 睡眠時の工夫
寝ている間の口呼吸には、「口閉じテープ」や「ナイトマウスピース」なども有効です。寝る前に口を閉じる習慣をつけることで、無意識のうちの口呼吸を防ぎます。
4. 歯科医院でのチェックと指導
歯科医院では、口呼吸による影響のチェックや、MFT(口腔筋機能療法)などの指導も受けられます。特にお子さまの場合、早期発見・早期対応が歯列や発育への悪影響を防ぐカギとなります。
まとめ
口呼吸は、見た目だけでなく、歯や歯ぐき、かみ合わせ、さらには全身の健康にまで悪影響を及ぼす習慣です。とくに成長期の子どもにとっては、将来の歯並びや骨格形成にも深く関わる重要な問題です。
「いつも口が開いている」「寝ているときに口が乾く」「歯並びがガタガタしてきた」――そんなサインに気づいたときは、早めに歯科医院や耳鼻科で相談することをおすすめします。
健康な歯と体を守るために、今日から「鼻呼吸」を意識してみましょう。それは、あなたの未来の笑顔を守る大切な一歩になるはずです。